水戸地方裁判所 平成3年(わ)128号 判決 1991年6月07日
本店の所在地
茨城県結城市大字結城六、一六二番地
法人の名称
株式会社渡辺商店
代表者の住居
右同所同番地
代表者の氏名
渡邉貞男
本籍
茨城県結城市大字結城六、一六二番地
住居
右同所同番地
会社役員
渡邉貞男
昭和一二年六月二八日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官北村明彦及び弁護人小松哲(主任)、同小松勉各出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社渡辺商店を罰金一、三〇〇万円に、被告人渡邉貞男を懲役一〇月に処する。
被告人渡邉貞男に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社渡辺商店(以下、「被告会社」という。)は、茨城県結城市大字結城六、一六二番地に本店を置き、千瓢加工販売業等を目的とする資本金二、五〇〇万円の株式会社であり、被告人渡邉貞男は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人渡邉は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、原材料である千瓢の架空仕入れを計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和六一年七月一日から翌六二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が三、三五四万八、四九〇円で、これに対する法人税額が一、二八五万二、七〇〇円であるにもかかわらず、同六二年八月三一日、所轄税務署である同県下館市大字二木成八二三の二番地所在の下館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九三八万七、一六四円でこれに対する法人税額が二七二万九、七〇〇円である旨の虚偽の法人確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告にかかる法人税額との差額一、〇一二万三、〇〇〇円を免れ
第二 昭和六二年七月一日から翌六三年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四、〇五八万七、三三一円で、これに対する法人税額が一、五七五万一、八〇〇円であるにもかかわらず、同六三年八月三一日、前記下館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、四七四万四、三七一円でこれに対する法人税額が四九二万五、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告にかかる法人税額との差額一、〇八二万六、六〇〇円を免れ
第三 昭和六三年七月一日から平成元年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が六、六四四万二、三四五円で、これに対する法人税額が二、六四五万九、一〇〇円であるにもかかわらず、平成元年八月三一日、前記下館税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、八五二万五八八円でこれに対する法人税額が六三六万三、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告にかかる法人税額との差額二、〇〇九万六、一〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一 下館税務署長作成の「回答書」と題する書面二通(各添付書類を含む)
一 検察官作成の電話聴取書
一 福田軍司、柴山往夫、山中勝男及び田口繁三の検察官に対する供述調書各一通
一 大蔵事務官小林雅樹作成の売上高、商品仕入高、期末たな卸高、接待交際費、事業税認定損、期首たな卸高、受取利息割引料及び有価証券償還益各調査書(各一通)
一 登記官作成の商業登記簿謄本一通
一 被告人の検察官に対する供述調書二通
一 被告人の当公判廷における供述
(法令の適用)
被告人渡邉の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人渡邉を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項一号を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
被告会社については、法人税法一六四条一項により情状を考慮していずれも同法一五九条二項所定の罰金刑を課することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、三〇〇円に処することとする。
(量刑の理由)
本件犯行は、昭和六一年七月から平成元年六月までの三年間にわたり、主として懇意な千瓢仲買人数名に手数料を支払って協力を求め、架空の仕入れを計上する、あるいは期末たな卸残高を一部除外するなどして実際の所得を隠すという手口で法人税を免れたというもので、ほ脱税額は起訴された三年分だけでも約四、〇〇〇万円余に及び、この種事犯としても決して少ない金額ではないし、ほ脱率も平均して約七五パーセントに上る。犯行の動機も、要するに将来に備えて個人資産を蓄積しておきたいというだけであって、特に汲むべき点は認められない。以上のような本件犯行の動機、態様、結果等からすれば、被告人の責任は重大であるが、被告人は本件が発覚するや一切の非を認めて税務調査に協力し、改悛の情も顕著であること、取引形態を一部改善し、この種事犯の再発防止を図っていること、修正申告をして本税、付帯税を完納したこと、これまで前科前歴がないこと等を被告人に有利な事情として考慮し、刑を量定した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 大東一雄)